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武地 秀実(たけち ひでみ)有限会社ともも 代表取締役/人形芝居えびす座 座長

『人形浄瑠璃の故郷である西宮で「えびすかき」の再興をめざして』

 

幼少の頃からあった民俗学への興味とダンスへの情熱

生まれは愛媛県です。父が転勤族だったので、愛媛と高知を行ったり来たりして育ちました。

物心ついた時からずっと「日本だけじゃなくて世界中を歩いていろんな人と出会って、その土地の歴史や暮らしを知りたい」という民俗学、文化人類学的な興味がありました。

ダンスも昔から好きでした。母がバレエを教えていたんですが、決められた踊りは嫌いで。自分の好きなように、風になったり花になったり、心から自由に踊っていました。

高校の部活もダンス部で、大学進学で東京に出てからも、アキコ・カンダさんというプロダンサーのもとでダンスを続けていました。いったんは商社に就職したんですが3年半で辞めて、ダンスの世界へ戻ったんです。

しばらくはプロダンサーとしてアキコ・カンダさんの舞台に出たりしていました。この方が本当にすばらしい表現体で。技術だけでなく人に伝えるということ、心に響かせるということの真髄をこの頃学んだように思います。

 

地域情報誌の仕事が縁で西宮商店街の復興に携わるように

結婚を機に神戸へ移り育児をしていた時に、地域情報誌のスタッフに採用されました。そこでライターや編集、広告営業として働くうちに「西宮と芦屋の担当になってくれ」と言われて西宮に越してきました。それが30年ぐらい前かな。

西宮の北側は、東京からの転勤族が多い印象。南側は昔からの酒蔵とえべっさんの街。住みやすくて、風情のあるいい街だなと思いました。

その後地域情報誌が休刊になったこともあり、2001年に西宮・芦屋の地域情報紙『ともも』を自分で立ち上げました。

創刊後しばらくして、取材やイベントが縁で事務所を開いた西宮中央商店街から、「理事になって、商店街の復興、街づくりを手伝ってほしい」と頼まれたんです。

私はタウン誌をずっとやっていたので西宮の歴史も知っていて、ここが人形浄瑠璃の源流だということは知っていたのですが、当時はほとんど知られていませんでした。そこで、人形芝居の街づくり、商店街復興と地域のシンボルとして「えびすかき」の復活に取り組むことにしたんです。

※「えびすかき」…「えびす廻し」とも呼ばれ、室町時代以降、西宮神社周辺にいた傀儡師(くぐつし)が行った人形廻しのこと。文楽や人形浄瑠璃のルーツと言われている。

 

ほとんど史料のないところから独自に創り上げた「えびすかき」

えびすかき再興にあたっていろいろな文献を調べました。首から箱をかけたスタイルはたくさん出てくるんですが、実際何を言っていたか、どういうことをしたかという詳しい情報がどこにも見当たらない。

能や狂言であれば代々家系で受け継がれていたりするんですが、えびすかきは本当に大道芸なんですね。全国を旅して歩いて……という大道芸だから、一座の人もいれば一人二人でやっている人もいた。だからまったく残ってないんです。

ただ、土地土地の人がその芸を真似て、えびす舞や口上を覚えて自分たちでやっていたということが後々わかってきたんです。

えびすかきが伝えたと言われている淡路人形浄瑠璃のえびす舞を習ったり、四国の民間伝承を聞き取りに行って作ったものが、今の「えびすかき」の原型になっています。

室町時代からあるわけだから、ずっと同じではないはず。その時代その時代で少しずつ時勢に合った面白いことを取り入れていたんじゃないかと思って。実際にやりながら少しずつ変化していって、現在に至っています。

 

西宮神社を拠点に人形芝居を上演、地方や海外への遠征も

震災で壊れかけていた家屋の一つをリフォームして作った人形芝居館でしたが、持ち主の関係もあって5年で閉鎖することになりました。その時、西宮神社さんが「うちに来てやったらどうか」と声をかけてくださって、今は神社のお祭りと毎月10日、皆さんに向けて境内で人形芝居を上演させていただいています。

お客さんはたまたま神社に来た人もいるし、見に来ている人もいるしさまざまです。芸能の神様が百太夫ですし、西宮のえべっさんと言えば人形がつきものなので、観光事業にも寄与できるように地域の歴史や文化を説明しながらやっています。県や市も認めてくださっているので、観光の一つの顔にはなっていると思います。

南三陸、滋賀県の沖島、佐賀など、地方へ行くこともあります。漁師町とか、えびす信仰が生きているところでえびす舞をやったら、ものすごく盛り上がりますよ。関西はとくにノリがよくて一体感があって、やりやすいですね。フランスの国際人形劇フェスティバルにも5回行っています。

 

日本中のえびすさんをつなげる「えびすサミット」をいつか開催したい

戦後生まれの人たちは、日本の成り立ちを学ぶような教育を受けていないと感じます。この歳になると、自分の国を愛するにはその成り立ちを知ることが大事だと実感するんです。なので、古事記とかそういった歴史を子供たちに人形芝居で伝えていきたいというのが一つ。

そしてやっぱり日本の放浪芸としては日本中のえびすさんとつながりを持って「えびすサミット」を開催したいなと思っています。

「人事を尽くして天命を待つ」と言いますが、「天命を信じて人事を尽くす」というのが私のスタイル。日本や世界が平和に向かっていけるのが一番いいんですが、せめて自分のできることで、少しでもみんなを元気に、笑顔にできたらいいのかなと思っています。

 

有限会社 ともも

〒662-0973 西宮市田中町4-9
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人形芝居 えびす座

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